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今月のオススメの一冊

教会の建築

『藤森先生茶室指南』

藤森先生茶室指南都市や建築を研究する建築史家でありながら、自身も建築家として活躍する著者が、タイトル通り「茶室」についてしたためたのが本書です。茶室事始めの「薪軒」(1997年竣工)から、高床式住居の発想を大胆に拡張させた「高過庵」(2004年竣工)、台湾の茶文化との出会いから生まれた「望北茶亭」(2014年竣工)といった最新作まで、利休らの精神を受け継ぎながらも、自由でユーモラスな藤森流茶室・全21作品を網羅した、読み応えのある一冊です。特徴は「茶室対談」というタイトルの元、著者が各界のプロフェッショナルとたっぷり語り合いながら、茶室の神髄に迫っている点。その1では茶室研究の第一人者である中村昌生、その2では小川流煎茶6代目家元の小川後楽、その3、4では茶室の試みを現代建築の中に生かす2人の建築家・原広司、隈研吾と、そうそうたるメンバーが、ビルディングタイプとしての茶室を拡張・逸脱することで、その可能性を見いだそうとする藤森流茶室について意見を交わしています。また本書では「藤森流茶室 全21作品クロニクル」として、これまで著者が作ってきた茶室について、概要と出来上がるまでの背景を紹介。独特な設計図と共に施工過程を追えるため、著者の頭の中を垣間見るような楽しさがあります。先人たちが築いた建築の概念を、敬意を持った上で楽しく転回させた挑戦の軌跡を、じっくりとご覧ください。

『藤森先生茶室指南』 『藤森先生茶室指南』
  • ■発行所:彰国社
  • ■著者:藤森照信・中村昌生・大嶋信道・小川後楽・原 広司・
    速水清孝・隈 研吾
  • ■参考サイト:彰国社のウェブサイト
  • ■価格:¥2,400+税


『茶室を感じる』

茶室を感じる本書は、茶の湯を中心とした日本文化を総合的に紹介する、月刊茶道誌「淡交」で連載された<茶室を感じる>に加筆、写真を追加して書籍化したもの。日本随一の数寄屋大工棟梁・中村義明と、新進気鋭の現代建築家・前田圭介が実際に茶室を訪ね、それぞれの茶室のディテールに迫る内容です。紹介されているのは日本に三席のみ存在する国宝茶室「待庵」「如庵」「密庵席」に加え、「庭玉軒」「妙香庵」「宝松庵」「桐蔭席」「飛濤亭」「忘筌」「伴雪」「神宮茶室」の全11におよぶ名茶室。写真はすべて撮り下ろしで、それぞれの茶室が持つ静ひつな美しさは、思わず息をのむほどです。またその空間に身を置き、かつての茶匠と同じ目線から茶室を感じた棟梁の言葉は、一言一言が深く、含蓄に富んでいます。中には聞き慣れない単語がいくつか登場しますが、本書にはきちんと「用語解説」のページがあるため、茶道に詳しくない方もご安心を。デザインや動線、素材といった、いわゆる建築的視点から空間を紹介しながらも、2人が「感じたこと」を意識的に言葉に変換しているような独特の語り口が魅力で、建築について学んでいたら、いつの間にか歴史や哲学にも深く踏み入ってしまっていた―、そんな奥深さがあります。総合芸術とも評される茶道の美意識が凝縮された「茶室」から、あなたは何を感じるのでしょうか。美を、空間を、そして建築そのものを問い直す一冊です。

『茶室を感じる』『茶室を感じる』

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