『世界の空き家対策 公民連携による不動産活用とエリア再生』
日本に約820万戸(2018年度調べ)もあるといわれている空き家。いまや過疎地域だけではなく、郊外住宅地の衰退や中心市街地の空洞化を背景に、空き家問題は全国的な広がりを見せています。実は海外でも空き家は社会問題の一つ。本書は、そんな各国の空き家事情、空き家対策について、データを交えながら詳しく紹介する一冊です。1章「日本と海外の空き家対策最前線」、2章「アメリカ 空き家の発生を抑える不動産流通システム」、3章「ドイツ 公民連携で空き家対策からエリア再生へ」、4章「フランス 多彩な政策と公民連携による空き家リサイクル」、5章「イギリス 行政主導で空き家を市場に戻す」、6章「韓国 スピード感のある空き家整備事業」と、国ごとにまとめられているのが本書の特徴。例えばアメリカでは、廃棄された住宅等を取得し、解体・保全など必要な措置を行い、再利用を図る公共的な非営利組織「ランドバンク」や、空き家・空き地を取得、管理運営して地域の価値向上に取り組む「コミュニティ・ランド・トラスト」が各地で設立され、重要な役割を担っています。またドイツでは、管理不全住宅が集中するエリアの場合、「都市改造」「社会都市」といったエリア全体として再生を図る仕組みがあります。これからの町づくりの在り方を考えるなら、空き家問題は避けて通れない問題。日本の空き家対策をより一層、進化させていく上で、各国の空き家対策を比較、分析した本書は貴重な情報源になるでしょう。
『アメリカの空き家対策とエリア再生 人口減少都市の公民連携』
近年、空き家問題が深刻化の一途をたどっている日本。本書は2009年に開始したアメリカの空き家対策の調査研究を一冊にまとめたものです。実はアメリカは空き家対策の先進国。人口減少都市では、大量に発生した空き家を行政のシビアな措置、多様な民間組織の参画、資金源の確保等により、迅速に除却・再生し、不動産市場に戻す仕組みを構築しています。ただ、日本の空き家問題は多くの法令・制度などの制約を受けることから、「アメリカの対策は日本の法制度になじまない」とする専門家も少なくありません。しかし著者は、「あきらめているだけで良いのだろうか」と疑問を投げ掛けます。本書を読み込んでいくと、アメリカでも当初は「憲法違反ではないか」と疑いを持たれた対策があったものの、繰り返し丁寧に説明することにより理解を得てきた歴史があることが分かります。つまり学ぶべきは、具体的な対策のみならず、努力や試行錯誤を重ねながら空き家問題に取り組んできたその姿勢。本書に記されたアメリカの空き家問題対策の変遷は、今後、問題のある特定空き家の増加が予想される日本にとって、少なからず参考になるでしょう。空き家を負債にせず大胆に活用し、衰退エリアを再生するアメリカの戦略・手法をまとめた本書は、日本の空き家対策の在り方と具体策を考える上で必読の一冊です。