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今月のオススメの一冊

隈研吾の世界

『隈研吾オノマトペ建築』

『隈研吾オノマトペ建築』 “オノマトペ”とは、物事の状態や動きなどを音で象徴的に表し、字句で模倣したもののこと。では「ぱらぱら」「さらさら」「つんつん」「もじゃもじゃ」、そんな音で表す建築とは―? 新国立競技場の設計をすることでも知られる世界的な建築家・隈研吾氏は、事務所所員とのコミュニケーションにおいて、積極的にオノマトペを使うといいます。「言葉には定義するとか明確化しようとする役割があるが、オノマトペというのは定義せず明確化しようという意思がない。そこがオノマトペの可能性」というのは隈氏の言葉。既成の言語を使って設計しようとした途端、逆に建築を拘束することになるのだというのです。「所長が所員に自分のビジョンを明確に伝えようと明確に定義した言葉を使うと、それ以上のものは生まれず、面白い建築にならない。ある種の誤読みたいなものを利用して次のステップへ進んでいく」―。本書には、そんな興味深い“隈研吾節”が収録されています。また、実際に「ぱらぱら」した建築、「さらさら」した建築などがカラー写真付きで多数紹介されており、実際の写真とオノマトペを見比べて、自分の中での“誤読”を楽しんでみるのもよいかもしれません。

『隈研吾オノマトペ建築』 『隈研吾オノマトペ建築』

『建築家、走る』(文庫版)

『建築家、走る』「建築家は競走馬」、そう独自の言葉で表現する隈研吾氏が日々ざっくばらんに語ったことを、ジャーナリストがまとめた一冊。「ぼくは強い時代に遅れた世代の建築家。弱い日本に生まれざるを得なかったがゆえの悩み、迷いこそが、ぼくの本領。そんな思いを正直に打ち明けた本」というように、ある種の劣等感を抱えた者だからこそ捉えることができた視点から、建築業界について赤裸々に語られています。現在、ヨーロッパ、アメリカ、中国・韓国などのアジア、日本と、大きく分けて3つのエリアを活動の拠点としている隈氏。“建築家・隈研吾”の目を通して見る「世界」はとても新鮮です。そんな隈氏ならではの外交術や、困難にぶつかった時の対処の仕方などは、建築業界以外においても参考になることでしょう。隈氏が「この地球上で現在、どこに富とパワーが集まっているかを示す最前線の指標が建築」というように、本書を読めば建築の背後に政治、経済、国際社会と、人間の営みのあらゆる要素が絡んでいることが分かります。そういった背景を知ることによって、新たな視点で「建築」を見ることができそうです。

『建築家、走る』(文庫版)『建築家、走る』

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