『人が集まる建築 環境×デザイン×こどもの研究』
人が集まる設計原則について考え本書を執筆したのは、1968年にデザイン事務所「環境デザイン研究所」を設立した仙田満氏。仙田氏いわく“環境デザイン”とは、それまでの空間スケールで分けられたデザイン領域座標に直交する座標で、「○○のための環境デザイン」というように、対象を明確にしたデザイン領域のこと。例えば、子供のための環境デザインでは都市、造園、建築、遊具、おもちゃなど、すべての空間デザインがその領域になるといいます。本書では、実際に著者が設計した新広島市民球場、ゆうゆうのもり幼保園、国際教養大学中嶋記念図書館などを例に、どのような建築・環境デザインが多くの人を集め、人々を幸せにするかについて述べられています。また、子供が元気に、健全に育つためには、さまざまな教育メソッドだけではなく、彼らが有意義な時間を過ごす空間も大切であると訴えている著者。“環境建築家”を名乗る著者が、そんな空間的な解決策として生み出した設計手法が「遊環構造」です。“子供が遊びやすい空間づくり”を意味したそれは、新広島市民球場の建設の際にも用いられ、遊環構造のポイントをふんだんに盛り込んだところ、年間入場者数が約2倍に増えたそう。建築や環境デザインが、文化的側面だけではなく経済的にも大きく関係することを多くの人に理解してもらい、デザインの重要性について認識してほしい、と話す著者の言葉通り、建築を通してさまざまな側面から社会全体を見渡せる一冊です。
『中村好文 集いの建築、円いの空間』
「住宅建築家」と称されることが多い建築家・中村好文氏の、“住宅以外の作品”を取りまとめた一冊。同出版社から出版されている人気シリーズ「中村好文 普通の住宅、普通の別荘」「中村好文 小屋から家へ」に続く第3弾です。前2作とは趣向を変えた本作では、中村建築に魅せられた写真家・雨宮秀也氏による美しい写真に加え、中村氏自らが執筆した解説文、図面、アイデアスケッチなどにより飲食店やミュージアム、ゲストハウスなどが紹介されています。その文章、イラストのタッチは飾らず、ぬくもりに溢れ、周囲の人から“コウブンさん”と親しまれている様子が目に浮かびます。たいへんな読書家でもあるというコウブンさんがつづる文章は伸び伸びとしていて小気味よく、読み物としても存分に楽しめる内容。余分なものがそぎ落とされ、華美ではないのに美しく心地よい―。そんなコウブンさんの文章と建築はイコールで結ばれており、ページをめくるたび、解説文と建築写真の答え合わせをしているかのような感覚になります。また、小説家・編集者である松家仁之氏の見開き5ページに及ぶ寄稿文も読み応え抜群。伊丹十三や小津安二郎など、影響を受けた人物が同じだという松家氏は、彼らの作品を引き合いに“中村建築”の魅力についてとくと語っています。なぜそこに人が集まるのか、その理由を確かめに、実際に足を運びたくなることでしょう。